Column コラム

2024.06.07

従業員ががんになったときのために求められる4つの環境整備とは

がん治療と仕事の両立支援のための4つの環境整備のイメージ

従業員ががんになったとき、治療を受けながら働き続けられる職場環境の整備が企業には求められています。
ただ、具体的にどんな整備を行えばよいかわからないという企業が大半ではないでしょうか。厚生労働省のガイドライン(※1)をもとに、従業員のがんと仕事の両立支援のために求められる「4つの環境整備」について解説します。

がん治療と仕事の両立支援で事前の環境整備が必要な理由

従業員ががんになったときに、会社として準備をしておらず慌ててしまう、という企業を多く見受けます。
これまでは、就労中の従業員ががんに罹患するケースは比較的まれだったかもしれません。しかしながら、世界一の高齢国となった日本では従業員の平均年齢も上がり、就労年代でがんに罹患(りかん)する方は増え続けています。

病気のリスクはさまざまありますが、特にがんは日本人の死因の第1位(※2)で、長期病休者の原因疾患として、メンタル不調に次いで2位というデータ(※3)もあります。
ときに命に関わることがある病気だけに、実際に罹患者(病気にかかった人)が出たときに慌てて対応しようとすると、企業担当者にとっても大きな負担になります。両立支援を円滑に進めるためにも、事前に環境整備に取り組むことが大切です。

治療と仕事が両立しやすい会社になるための4つの環境整備

もしがんになっても、今は働きながら治療するということが可能な時代です。治療と仕事を両立しやすい会社になるためには、大きく以下の4つの整備が必要とされています。


それぞれ詳細を解説していきます。

 1. 両立支援の基本方針やルールの表明と周知

治療と仕事の両立支援に取り組むにあたり、会社の基本方針具体的な対応方法のルールを作成しましょう。作成した基本方針とルールを従業員に周知することで、両立支援の必要性や意義の理解を促し、治療と仕事の両立をしやすい風土の醸成に繋がります。

■ 基本方針の策定

従業員からの理解と協力を得られやすくするために、まず、治療と仕事の両立支援の「基本方針」を定めましょう。作成においては、下記の点に留意とよいでしょう。

● トップの考えとして必要性や意義を盛り込む
● 経営理念や経営方針、健康経営の宣言など既存の取り組みと連動させる
● 従業員の誰もが当事者になる可能性があり、相互の理解が大切であることを伝える
● 当事者の気持ちが最優先されるような内容にする


両立支援は当事者となった従業員を支援する取り組みである一方、当事者以外の従業員の理解も大切です。なかには「うちは大企業でもないのに、そんな取り組みが本当に必要なのか?」という意見が聞かれた事例もあります。会社やトップの意志を明確にし、宣言することで、従業員からの理解と協力を得られやすくなります。

また、治療中は気持ちの落ち込みや治療の副作用など、病気になったご本人でしか分からないことも多くあります。本人の気持ちを優先することも重要です。

■ 具体的な対応方法等のルールの作成

がん治療と仕事の両立支援の取り組みに当たって、事前に事業場内ルールを定めておくことが重要です。
事前に検討するべき主なルールについては、以下のようなものが挙げられます。

● 相談窓口(まず誰に相談したらよいか)
● 両立支援申し出の手順
● 関係者(人事担当者、上司、産業保健スタッフ等)の役割
● 保護すべき情報(個人情報保護)と共有すべき情報の線引き
● 休暇・休職などの勤務制度


こうした方針やルールの協議・検討の進め方については、会社の規模や専任担当者・産業医の有無など、それぞれの会社の実情で変わります。

方針やルールの草案作成は人事・労務担当者が担い、産業医や産業保健スタッフ(保健師や看護師)、衛生委員会メンバーなどの意見を取り入れて策定することが一般的でしょう。がんを経験した従業員などがもしいれば、当事者の意見を取り入れることで、より実態に合ったものが作成できます。

社内で知見や人員に乏しく協議や検討が進まない、取り組み方がわからないといった場合には、両立支援の専門家を頼ることもおすすめです。

■ 全ての労働者に対する周知

基本方針・ルールが定まったら全ての従業員に周知しましょう。
特に基本方針は企業トップの言葉として伝えることで、従業員に対する会社の想いや理念の理解につながります。
また、社外に対しても積極的に発信することで、人材採用や企業ブランディングにもプラスに働くでしょう。

2.  両立支援に関する理解向上と意識啓発に取り組む(研修やセミナーの実施)

方針やルールを作っても、それだけではなかなか理解は深まらず、せっかくの取り組みも従業員の記憶から薄れてしまいます。制度の浸透には、研修・セミナーなどを活用して、治療と仕事の両立支援に関する意識啓発をすることが重要です。

がん治療と仕事の両立支援についての意識啓発とは、言い換えると「がんになるかもしれない、ということを自分ごと化して、それに備えてもらう」ことです。両立支援というと、一般的には、従業員ががんになってしまった後のことだけを考えることが多いですが、単に「がんになったときは会社に支援制度が用意されていますよ」と伝えても、多くの従業員には響かず自分ごと化はされません。

就業世代でもがん罹患者が増えている実態を知ってもらい、がんを予防したり早期発見で命を落とさないようにするにはどうすればよいか、といった、「がんになる前」のところから情報提供することで、意識啓発も実現されます。従業員のがん予防・早期発見の取り組みから、両立支援は始まっているといえます。

【啓発セミナー等実施のポイント】
● 自分ごと化してもらう。そのためにはがんのリスクや予防・早期発見の重要性と方法などから伝える
● 年1回程度、継続的に実施する(繰り返し伝えないと浸透しない、新入社員にも情報を伝えるため)

3. 相談窓口等の明確化

がんになった従業員への両立支援を行うためには、本人から会社への相談・申し出が起点になります。そのため、従業員が安心して相談や申し出できるように、相談窓口を明確にしましょう。

【相談窓口の例】
● 人事部・総務部で受ける
● 健康相談を受ける専門担当を設ける
● 産業医や保健師等が受ける
● 所属長や部署内の担当者を置いて受ける
● 専門のサービス提供をしているところに外部委託して受ける


接点の多い所属長を窓口にする方法もあれば、産業医などの医療スタッフを窓口にする、リソースがない場合は外部委託するなど、方法はさまざまです。

「相談窓口」と言っても、会社の規模や体制によって産業医や専任担当者がいない、置けない場合もあり、まず所属長が窓口になるケースも多くあります。いずれにしても相談窓口として重要なのは、安心して相談できることです。がんのような病気に罹患したことを伝えるのは本人にとっては精神的ハードルがあります。安心して相談できる窓口を設置し、相談の敷居を下げるように心がけましょう。

相談をしやすくするための工夫として、相談内容や情報の取り扱いに関するルールを明示して、本人の同意なく情報は漏らさないことや、病気の申し出をしたことで不利益を被らないこと等をしっかり伝えることが大切です。受付方法はメールや電話、オンラインなど従業員が選べるようにすると相談の敷居を下げられます。

両立支援のルールを定めて事前周知することは大切ですが、実際には、ほとんどの従業員は細かなことまで覚えられません。そのため、「いざというときに安心して相談できる相談窓口がある」ということを覚えてもらい、実際には、支援発生時に相談窓口担当者から具体的なことを伝えるようにすることが必要です。

4. 両立支援に関する制度・体制等を整備する

がんの治療は、病気の進行度に応じて、主に手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤など)を組み合わせて行います。治療内容によって会社を一定期間休んだり、通院のために遅刻や早退が必要になることがあります。また、治療の副作用のために出勤しての勤務が難しい時期が生じることもあります。

そのため、会社としては①勤務の時間、と②勤務の場所に柔軟性を持たせた制度を設けることで、従業員は治療と仕事を両立しやすくなります。

柔軟な勤務形態柔軟な勤務場所
私傷病休職制度
半日有給休暇
時間単位有給休暇
時差出勤制度
フレックスタイム制度
短時間勤務制度
中抜け制度
試し出勤制度
など
リモートワーク、テレワーク制度(在宅含む)
など

その他にも、以下のような体制を検討しておく必要があります。

■対応手順、関係者の役割整理
・労働者から支援の要請があった際に、円滑な対応ができるように事前に関係者の役割と対応手順を整理

■情報共有のための仕組み
・両立支援のために、本人を中心に関係者が本人の同意を得た上で情報を共有し連携する仕組みづくり
・情報の種類と、各関係者が取り扱える権限の整理

■労使等の協力
・従業員が一方的に不利にならないように労使や産業保険スタッフが連携するように取り組む

治療と仕事の両立には従業員本人だけでなく同僚、産業医など多くの人の協力が必要です。実現に向けて制度・体制を整えておきましょう。

まとめ

従業員ががんになったとき、治療と仕事の両立支援を実現するために必要な環境整備についてお話しました。

従業員がいつ病気に罹患するかは分かりません。整備することは多岐にわたりますが、完璧にやろうとして着手できないよりは、できることから着手しましょう。

弊社でも、両立支援の実現に向けて、課題を解決できるサービスをご提供しています。マンパワーがない、何から着手してよいか分からないなどお困りの企業様は、お気軽にお問い合わせください。

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【参考文献】
1)厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に基づく事業場における環境整備・取組事例を踏まえた参考資料
https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/dl/download/2305_1_reference.pdf
2)厚生労働省 令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
3) 民間企業における長期疾病休業の発生率、復職率、退職率の記述疫学研究 :J-ECOHスタディ
https://www.zsisz.or.jp/investigation/179178c10a7c0fac551cc788f9745d921520b636.pdf

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